資金難の中でのやりくり

映画をご覧になった方は知っているとおもいますが、アスレチックスは資金難にあえぐ貧乏球団です。ブラッド・ピット演じるビリー・ビーンが球団オーナーに選手補強のための予算をあげてくれと直訴しますが、オーナーは与えられた予算の中で上手くやってくれというばかりで追加の資金なんて夢のまた夢でした。そんな中で上手にやりくりするために採用されたのがセイバーメトリクスであり、ビリーの「マネーボール」理論が生まれたのです。先述したような選手の選び方

以外にも、貧乏な中での節約術がありました。

ビリーの節約法

低年俸の選手の獲得

アスレチックスが獲得する選手は、他球団で評価されていない「欠陥品」や「傷物」とされた選手たちでした。この欠陥品とは、他球団の価値基準においてであり、前述したようなアスレチックスの基準においては必ずしも問題とはならない部分でした。前述の能力を有していれば、これらの欠陥はほとんど問題にされないのです。例えば、20連勝を決めた試合でホームランを放ったスコット・ハッテバーグは、元々はボストン・レッドソックスの捕手でした。しかし捕手としては致命的な利き腕への怪我を負い、手術したため選手生命は絶望的と評価されており、年俸は低かったのです。しかし、高い出塁率を残していたことをアスレチックスに注目され、アスレチックスに内野手として獲得されました。その結果、主軸打者として活躍したのです。選手が競技者として致命的な怪我を負い復帰した直後は、市場価値が急落しているために、交渉しやすいことがメリットです。後述のスカウティング・ドラフトにおいても、代理人が付くスターアマチュア選手は契約金が高くつくため、代理人の付いていない選手が優先されました。

複数年契約は年俸抑制の近道

有望な若手の選手とは、積極的に複数年契約を結びます。これは年俸調停権やFA権を取得する前の早い時期から契約することで年俸を抑制できるためでした。特に現在サンフランシスコ・ジャイアンツに移籍したバリー・ジトーや、アトランタ・ブレーブスに移籍したティム・ハドソン、2010年に現役引退したマーク・マルダーの先発投手3名は、成績に対しての年俸が低く、極めてコストパフォーマンスが高い事で知られていました。FA権を取得すると年俸が必然的に上がってしまうため、後に3名とも放出されています。

トレードは資金獲得のチャンス

上記のFA権を取得した選手のように、年俸が高くなると判断した選手は躊躇なくトレードに出すのもビリーの戦略の特徴でした。その場合獲得するのは原則として、若手で前述の要素を満たしている選手です。前述の要素は他球団では年俸に反映されることはあまり無く、低い移籍金で獲得が可能です。FA権を取得した選手もほとんど引き止めることはありません。FA権を用いて選手が他球団へ移籍した場合、MLBの制度ではドラフト指名権が優遇されるため、代替選手の獲得も容易になるからです。逆に、状況を活用して並みの選手の数値を上げ、高い移籍金で売り飛ばす方法で運営資金を獲得しました。「マネー・ボール」の中では「がらくたを押し付ける」と表現されていました。チームの主軸の年俸が上がったために手放した場合でも、その選手の能力を細分化し複数の選手を獲得・運用することでその穴を埋めました。「将来性」というようなデータで証明できない曖昧な要素は考慮せず即戦力を重視しました。選手生命に影響するような怪我をした直後の選手は市場価値が暴落するので、獲得に動くことは常套手段のひとつとなっています。「マネー・ボール」出版以降は、ビリーの戦略が広く知れ渡ったため、前述の指標を満たす選手の市場価値が一部では上がっています。例えば、ビリーが重要視する高い出塁率を誇る選手などは、以前ほど安価には獲得できなくなりました。

スカウティング・ドラフト

旧来の、スカウトの経験や勘によって得られた暗黙知による選手評価を全否定し、客観的データ主義を徹底しました。体格やバッティング・ピッチングフォームなどの外見は考慮しません。あくまで、前述の要素を満たす選手を獲得することに注力しました。スカウトの選手を判断する基準が主観的(この選手は伸びる、才能を秘めている等)であったことや、元選手のスカウトが選手時代の経験に基づいて判断を行っていたため、不確実であることや戦略立てて選手を獲得できないという欠点を抱えていました。また、スカウト陣が閉鎖的、前時代的な価値観を捨てられず、ビリーの方針とそぐわなかったため、大半を解雇しました。また、選手の身辺調査や素行調査も行い、本人の言動・交友関係・家族の犯罪歴の有無などから将来悪影響をおよぼす可能性があると判断した選手は徹底して獲得候補から排除しました。また、不確実性の排除はそのまま高校生選手の獲得と排除に繋がりました。しかし、ビリーのやり方が広まるにつれ、スカウトの間でもこうした手法がひろまったことからマネー・ボールで成功した当時、アスレチックスはデータ8割・スカウト2割でチーム編成を考えたのを、データ4割、スカウト6割とこれもでのやり方に戻しています。

マネー・ボールの結果

ビリー・ビーン政権下のアスレチックスは、レギュラーシーズンには強さを見せ、毎年のようにプレーオフに進出するものの、ワールドシリーズには進出できていません。この原因の一つには、先述したような出塁率を重視するチーム編成や戦術が、多くの試合を重ねる長期戦の中で勝率を高めることには高い効果が期待できるのですが、勝率ではなく先に定められた数の勝利を挙げなくてはならない短期決戦には必ずしも向いてはいないためと言われています。そもそも、最大でも7試合しか行わないプレーオフでは数値に「揺らぎ」が出やすいため、長期のレギュラーシーズンに比べて、チームの戦略や選手の能力よりも運や偶然が結果を左右しやすいのです。ビリーも「プレーオフまで進出させることが仕事」と現状の分析方法および戦術の短期決戦における限界を認めています。

Page Top